← BUSINESSシリーズのご案内に戻る BUSINESS 第1回
「Airbnbの売上は月50万円。手数料を引いても十分黒字のはず…なのに、なぜか月末の通帳残高が増えていない」
民泊オーナー様から、こんなご相談を本当によくいただきます。
その答えを知るカギが、ホテル業界で最重要視されている指標「GOP(Gross Operating Profit、営業総利益)」です。民泊はホテル業界の経験がなくても始められる手軽さが魅力のひとつです。ただその分、業界固有の指標に触れる機会は少ない。GOPを知るだけで、自分の物件が「健全か」「どこに改善余地があるか」が一目でわかるようになります。
GOPとは何か
GOPはホテル業界で広く使われる利益指標で、簡単に言えば「運営によって生み出された利益」のことです。
GOP = 売上 − 運営にかかった変動コストここでいう「運営にかかった変動コスト」とは:
- 清掃費・リネン費
- アメニティ・消耗品費
- ゲスト対応にかかる人件費(自分で対応する場合も時給換算)
- 水道光熱費
- OTA手数料(Airbnb、Booking.com等のプラットフォーム手数料)
- 軽微な修繕費
など、日々の運営に伴って発生するコストを指します。
一方で、家賃・減価償却費・固定資産税・ローン金利といった「物件を所有・賃借していること自体にかかる固定費」はGOPの計算には含めません。これらは別途、家賃比率などの指標で管理します。
GOPはあくまで「運営自体が利益を生んでいるか」を見る指標です。実務では「GOP率 = GOP ÷ 売上 × 100%」の形で使われ、業界では「GOPが何%出ているか」で物件の健全性を判断します。
GOPは家賃・税金を含まない「運営実力値」。この数字が高いほど、物件スペックに依存せず稼げる運営ができているということ。
業態別のGOP率の目安
GOP率は業態によって異なります。一般的な目安は以下の通りです:
業態 | GOP率の目安 |
|---|---|
ラグジュアリーホテル | 25〜35% |
シティホテル・ビジネスホテル | 35〜45% |
ゲストハウス・カプセルホテル | 30〜40% |
アパートメント型民泊 | 50〜60% |
戸建て民泊 | 55〜65% |
民泊の数値はAirbnbの「ホスト固定型サービス料(約15%)」を前提とした目安です。
「分割型サービス料(ホスト3% + ゲスト約14%)」を採用している場合は表面上のOTA手数料は下がりますが、ゲストの総支払額が上がるため予約率や評価面で別の影響が出ます。本記事では業界標準のホスト固定型を前提に解説します。
ホテルのGOP率が思ったより低いと感じる方も多いかもしれません。これは、ホテルがフロント・ハウスキーピング・レストラン・営業など多くの人員を抱え、24時間体制で稼働しているためです。一流ブランドでも、GOP率は30%前後で推移しています(参考:各社IR資料)。
その点、民泊は固定費構造がシンプルで、構造的にホテルより高いGOP率を実現しやすいビジネスモデルです。逆に言えば、民泊で50%を切っているなら、価格設定・コスト構造・稼働率・滞在期間のいずれかに改善余地があるサインかもしれません。
標準的な民泊の収支イメージ
イメージしやすいよう、月商30万円のアパートメント型民泊を例に、典型的な収支例を示します。
項目 | 金額 | 構成比 |
|---|---|---|
売上 | 300,000円 | 100.0% |
清掃費・リネン費 | 45,000円 | 15.0% |
OTA手数料(Airbnb固定型 約15%) | 45,000円 | 15.0% |
水道光熱費 | 18,000円 | 6.0% |
アメニティ・消耗品 | 9,000円 | 3.0% |
ゲスト対応の人件費 | 12,000円 | 4.0% |
軽微な修繕費(按分) | 6,000円 | 2.0% |
コスト合計 | 135,000円 | 45.0% |
GOP | 165,000円 | 55.0% |
このように、アパートメント型民泊では清掃費とOTA手数料が二大コストとなり、それぞれ売上の15%前後を占めます。この2項目の構成比をいかに下げるかが、GOPを伸ばす上での最重要論点になります。
いま起きている「清掃費インフレ」
ここで触れておきたいのが、近年の清掃費の急上昇です。
人手不足による清掃スタッフの賃金上昇、円安と物価高によるリネン・洗剤の原価アップ、清掃委託会社の値上げラッシュ――。コロナ後、清掃単価は1〜2年で20〜30%上昇したケースも珍しくありません。
さらに厄介なのは、清掃費が「1回あたり固定」で発生するコストだという点です。3泊滞在でも10泊滞在でも、清掃は1回。つまり短期予約中心の物件ほど、稼働1泊あたりの清掃コスト負担が重くなり、利益率が下がります。
「売上は変わっていないのに、手元に残るお金が減っている気がする」という感覚の正体は、多くの場合この清掃費インフレです。
清掃費インフレへの根本的な対策は「値上げ交渉」ではなく、1ステイあたりの滞在日数を伸ばすこと。清掃回数を減らすことで、コスト構造そのものを変える。
ユカハンの実績
参考までに、私たちユカハンが運営する物件の実績GOP率をご紹介します。
- 自社ブランド「Wuto」シリーズ:70〜80%
- 運営受託物件(運営代行手数料控除前):60〜70%
業界の目安を10〜20ポイント上回る水準です。なぜこの水準を維持できているのか。要因は派手なテクニックではなく、運営思想そのものにあります。
① 長期宿泊の獲得 ── 清掃・対応コストを構造的に下げる
最大のレバーが「長期宿泊の獲得」です。民泊コストの大半は「1ステイあたり」で発生する固定費です。3泊滞在と21泊滞在では売上は7倍違っても、清掃・対応コストは1回分しか変わりません。
長期滞在を意図的に獲得することで、1泊あたりのコスト割合を構造的に下げられる――これが昨今の清掃費インフレに対する最も本質的な対策であり、Wutoが業界水準離れしたGOPを実現できている最大の理由です。
② Airbnbへの特化 ── 価格競争からの離脱
ユカハンは原則としてAirbnbへの一本化で運用しています。複数OTAに掲載すると一見露出は増えますが、ゲスト層が分散し、「他より少しでも安い宿」を探されるようになります。結果、価格競争に巻き込まれADR(平均単価)が下がります。
「Airbnbに泊まりたいゲスト」、つまりホテルでは得られない体験を求めて能動的にAirbnbを選んでいる層を確実に獲得することに集中することで、価格ではなく体験で選ばれる宿になれます。
③ 「ホテル化させない」という運営思想
民泊運営でやりがちな間違いが、ホテル的なサービスを目指してしまうことです。一見ホスピタリティが高いようで、実は次のような副作用を生みます:
- 価格競争に巻き込まれる:ホテルが比較対象になり、宿泊単価で勝負するハメになる
- 対応コストが膨張する:ホテル品質を期待されると要求が際限なく増える
- 宿泊日数が短くなる:ホテル感覚で1〜2泊利用が増え、清掃・対応コスト効率が悪化
私たちは意図的に「ここは家であって、ホテルではない」という世界観を一貫させています。これによりAirbnb本来の価値観に共感するゲストが集まり、運営コストもクレームも少なく、長期滞在も増えるという好循環が生まれます。
④ 結果としての高評価・検索上位・長いリードタイム
①〜③の積み上げが結果として何を生むか。
- 高いゲスト評価(Wutoシリーズ平均 4.9)
- Airbnb検索アルゴリズム上での上位表示
- 長いリードタイム(数ヶ月先まで予約が埋まる)
検索上位に出ればOTA手数料あたりの費用対効果が上がり、長いリードタイムは価格を強気に設定できる余地を生む。これらは「短期売上を追わず、Airbnbという媒体の本質に正直に運営する」という姿勢の副産物です。
自分の物件のGOP、計算してみませんか
ここまで読んで「自分の物件のGOP、いくらなんだろう?」と気になった方は、ぜひ一度計算してみてください。
GOP率 =
(月の総売上 −〔清掃費 + アメニティ費 + 光熱費 + OTA手数料 + ゲスト対応の時給換算〕)
÷ 月の総売上 × 100%業態目安を大きく下回っていたら、価格設定・コスト構造・稼働率・滞在期間の構成のいずれかに改善余地があるサインです。
「計算してみたけど何が問題かわからない」「目安は超えているがもっと伸ばしたい」という方は、お気軽にご相談ください。ユカハンでは、現状分析と改善提案を無料で承っています。
次回は、GOPと並んで重要な「ADR(Average Daily Rate、平均客室単価)」を取り上げます。ADRは価格戦略の起点となる数字で、これを正しく理解せずに価格を動かすと「稼働率は上がっても収益が落ちる」罠にハマりがちです。お楽しみに。
