「Airbnbやってます」と言うときの、小さな違和感
自己紹介で「民泊をやっています」と言うと、相手の頭に浮かぶのはたいてい「住宅を使った簡易ホテル」です。ベッドを詰めて、鍵はスマートロックで、誰とも会わずにチェックインする宿。実際、日本の民泊の多くはそう作られていますし、それで成立しているビジネスも数多くあります。
ただ、私たちはこのイメージと「Airbnb」という言葉のあいだに、ずっと小さな違和感を抱えてきました。今日はその話をします。
日本で「民泊」という言葉が背負ったもの
「民泊」という日本語は、制度の歴史と切り離せません。2018年の住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行前後から、この言葉は「住宅を宿泊施設に転用するビジネス」の総称として広まりました。
制度の言葉として生まれたので、そこに思想はありません。旅館業簡易宿所も、特区民泊も、新法民泊も、メディアではまとめて「民泊」。結果として「住宅を使ったホテルの廉価版」というイメージが定着していきました。ホテルと比べて安い、そのかわり設備やサービスは劣る――そんな序列の中に置かれた言葉です。
このイメージ自体を否定するつもりはありません。問題は、この前提のまま運営を設計すると、ホテルの縮小コピーを作ることになる、という点です。ホテルと同じ土俵で戦えば、比較されるのは価格と設備と立地。普通の家が、宿泊のために作られたホテルに勝てる要素は多くありません。
Airbnbが本来持っていた思想
一方のAirbnbは、ホテルの代替として生まれたサービスではありません。始まりは2007年、サンフランシスコのデザインカンファレンスでホテルが満室になり、創業者たちが自宅のリビングにエアベッドを置いて旅行者を泊めたことでした。Air Bed and Breakfast――エアベッドと朝食。文字通り、暮らしの一部を旅行者とシェアするところから始まっています。
そこにあった価値は「安く泊まれること」だけではありません。地元の人の家に泊まり、その人の目線で街を知り、観光ガイドに載らない日常に触れる。ホストとゲストの関係が、施設と客の関係とは違うかたちで結ばれる。シェアリングエコノミーという言葉が持っていた本来の手触りが、そこにはありました。
Airbnbのレビュー文化やホスト評価の仕組みは、いまでもこの思想の上に設計されています。「清潔さ」と並んで「コミュニケーション」「チェックイン」が独立した評価項目になっているのは、モノ(部屋)ではなく体験全体を評価する思想の表れです。
「住宅を使ったホテル」と「シェアされる暮らし」の分岐
整理すると、同じ「民泊」という言葉の中に、実は2つの異なるモデルが同居しています。
ひとつは、住宅を効率的に宿泊施設化するモデル。ベッド数を最大化し、オペレーションを無人化し、マニュアルや掲示を充実させることでゲストとのやり取りを極力減らす。そうして効率を磨き、一人あたりの価格競争力で稼働を取る。これはホテル業の文法で動くビジネスです。
もうひとつは、暮らしをシェアするモデル。その街に住むように滞在してもらい、その地域や家に縁のある人間としての視点、そこから生まれるコミュニケーションを価値として届ける。これはAirbnbの文法で動くビジネスです。
どちらが正しいという話ではありません。実際、私たちは運営受託では前者のモデルの物件もお預かりしていますし、立地や物件特性によっては前者が合理的な選択になることもあります。
ただし、この2つを混同したまま運営を設計すると、失敗します。ホテルの文法で作った部屋にAirbnbの文法の価格を付ければ割高に見えますし、その逆なら安売りになります。ゲストへの対応も、レビューで評価されるポイントも、2つのモデルではまったく違う。自分の施設がどちらの文法で動いているのか――これを決めることが、実はすべての運営判断の出発点です。
私たちがAirbnbらしいAirbnbを選ぶ理由
ユカハンの直営施設は、後者の文法で運営しています。理由は単純で、私たち自身が旅人として、そういう宿に泊まりたいからです。
私たちはゲストとして世界中のAirbnbに泊まってきました。記憶に残っているのは、豪華な設備でも、多言語の充実したマニュアルでも、24時間すぐに返事が来る英語対応でも、完全に清潔で整然とした空間でもありませんでした。暮らすように落ち着ける設備。ガイドブックに載っていない店を教えてもらったこと。飛行機の遅延で予定が崩れたとき、親身に助けてくれたホスト。そういうものです。ゲストチョイスや4.9台後半のレビューは、その体験を自分たちの施設で再現しようとしてきた結果だと考えています。
まとめ ── 「割高な民泊」と思われることも含めて
正直なことを書きます。日本では、シェアリングエコノミーや滞在型の旅行スタイル自体が、まだ広く認知されていません。それがこの混同の根幹にあるのではないかと思っています。
だから、ホテルや「安く泊まれる民泊」を期待して私たちの施設を予約され、必要最低限のメッセージのやり取りだけで滞在を終えた方にとっては、私たちの施設は割高に感じられることもあるはずです。それは、その方が悪いのではなく、私たちが届けたい価値がまだ伝わりきっていないということです。
私たちはAirbnbが好きで、滞在型の旅が好きな夫婦です。だからこそ、この違いを発信し続けることで、日本の旅の選択肢を少しずつ変えていきたいと思っています。
それからもうひとつ、運営する側として自信を持って言えることがあります。Airbnbの文法のほうが、コミュニケーションが楽しい、ということです。
ゲスト対応を「カスタマーサポート」と捉えると、問い合わせは面倒なものになります。なるべく早く終わらせたい、返信時間のKPIを良くしたい――そういう発想になってしまう。ところが同じやり取りでも、「ホストとしてゲストの旅を手助けしている」となると、とたんに楽しさと充実感に変わります。おすすめした店に行ってくれた報告、旅程の相談、チェックアウトの日の挨拶。これは業務ではなく、旅の一部に参加させてもらう時間です。
この感覚は、ぜひホストになって実感してみてほしいものです。
「民泊」と「Airbnb」は同じではない。この違いを意識するだけで、価格設定も、内装も、ゲスト対応も、見え方が変わってきます。次回は、この視点をプラットフォーム選びに下ろします。Airbnb・海外OTA・国内OTA、それぞれの客層と文法の違いについて。
