BUSINESS SERIES ── 番外編

前回はゲスト対応の方向性、宿泊業5類型から見たAirbnb的ホスピタリティの話をしました。今回はその続きで、もう少し具体的に「何語でゲストとやり取りするか」を考えてみたいと思います。

これは私たち自身、答えが出ていないテーマです。日々運営しながら「これでよいのかな」「もっとよいやり方があるのではないか」と思い続けている領域なので、結論を示すというより、現在地を共有して一緒に考えていただくような回にできればと思います。

Airbnbは、翻訳がデフォルトでオンになっています

意外と意識する機会が少ないのですが、Airbnbのメッセージ機能は、翻訳がデフォルトでオンになっています。日本語で書けば英語話者には英訳が、英語で書けば日本語話者には和訳が、自動で添えられて届きます。

そしてこれは、ホスト側の機能だけではありません。私たちが海外旅行に出かけて、ゲストとしてAirbnbに泊まるときも、同じく翻訳がデフォルトでオンになっています。スペインのホストがスペイン語で書いたメッセージが、私たちには日本語に訳されて届きます。逆にこちらが日本語で返せば、ホストの画面ではスペイン語に訳されています。

ホストの言語でも、ゲストの言語でも、英語でもなく、それぞれの母語のまま読める。これがAirbnbのプラットフォーム設計の前提で、第6回で書いた「ローカルな空気・人としての温度を尊重する」という思想とよく整合しています。

そもそも英語ネイティブはどれくらいいるのでしょうか

少し横道にそれますが、「英語ネイティブ」と「英語が母語ではないけれど話せる人」を区別して考えてみると、視野が広がります。

アメリカやイギリスのような英語圏の国でも、第一言語が英語ではない人はかなりの割合います。日常的にスペイン語や中国語で暮らしている人も多く、英語はあくまで仕事や行政の場面で使う「公用言語」という位置づけだったりします。世界全体で見れば、英語を母語とする人は1割強で、第二言語として使える人を含めても多数派にはなりません。

「海外ゲスト=英語で対応すべき」という前提は、この事実とは少しずれています。英語を介すること自体が、相手にとってもひと手間かかっている可能性は十分にあります。

私たち自身、過去に海外で暮らして英語で仕事をしていた時期もありますが、それでも自分が旅行に出るときは、現地の英語のメニューや観光案内が日本語に訳されて読める方が、圧倒的に楽です。別に旅先で英語の勉強がしたいわけではなく、その土地を楽しみたいだけだからです。たぶん多くのゲストにとっても、これは同じだと思います。

ホテル基準でないなら、英語化が必須とは限りません

第6回の話とつなげると、対応言語のあり方も「自分の施設がどの型を目指すか」によって変わります。

ホテルやリゾートのように、世界共通のサービス品質を提供することを目指すなら、英語というプロトコルで標準化する意味があります。プロフェッショナルとして一定品質を保証するモデルなので、共通言語があった方が動きやすい構造です。

一方、Airbnb的な型を目指すなら、英語に揃える必然性は実はそれほど強くありません。日本語で素朴に書いて、翻訳機能に任せる。それで「ホストの温度」がそのまま伝わるなら、その方が世界観に合っています。

「英語ができないから海外ゲストを受けられない」という前提は、ホテル的サービスを基準にしたものです。Airbnbの土俵では、必ずしも成立しません。

24時間対応の話 ── ホテルと「誰かの家」の違い

業界では「24時間多言語対応」を売りにする運営代行が多くあります。第4回で扱った3者構造の話とつながりますが、代行業者にとってこれは分かりやすいセールスポイントで、契約獲得の決め手にもなります。

ただ、Airbnbのプラットフォームを見ると、面白い設計があります。ホストプロフィールには現地時間が表示されていて、メッセージを送ろうとするときに「ホスト側はいま深夜です」「返信が遅れる可能性があります」と暗に伝わるようになっています。「24時間即レス前提」ではないコミュニケーションが、最初から想定されている設計です。

ここはホテル的サービスとAirbnb的ホスピタリティで、ゲスト側の心の準備が違うところだと思います。ホテルに泊まっていて、夜中に困ったことがあってフロントに行ったのに誰もいない——これは確かに困ります。一方で、誰かの家にお邪魔している立場で、たいしたことのない用事で深夜にホストを起こしてしまい、丁寧に対応されたら、こちらが申し訳ない気持ちになります。同じ「夜中の対応」でも、文脈が変わると意味が変わります。

24時間多言語対応はたしかに価値ですが、それがAirbnb的な世界観と相性がよいかは、別途考える価値がありそうです。

私たちの言語スタック

参考までに、私たちの現状を率直に書きます。

ユカハンの中心メンバーである私たち夫婦は、日本語・中国語・英語の3言語で対応できます。3言語については、翻訳ツールの誤りやニュアンスの違いも自分たちで判断できるので、最終的な確認まで自分の目を通せます。これは強みになっています。

スペイン語とフランス語は、少しだけ理解できる程度です。挨拶や簡単なやり取りなら拾えますが、込み入ったメッセージを翻訳に任せて出した結果が正しいかどうかは、自分たちでは判断できません。だからこの2言語については、メッセージ対応で正面切って使うことはしていません。仮に他のメンバーが使っていたとしても、私たちにはその精度を判断できないので、確実なコミュニケーションが担保できる範囲ではない、という整理です。

「対応可能言語」を多く掲げることはマーケティング上は魅力的ですが、確実なコミュニケーションができる範囲を超えるなら、無理に増やさない方が、結果的にゲスト体験を守ることになる気がしています。

翻訳ツールの優秀さと、独特のクセ

Airbnbに搭載されている翻訳エンジンは、私たちが日々使っている範囲では非常に優秀です。旅行・宿泊という文脈に最適化されているのか、チェックイン情報、観光の質問、宿泊ルールに関するやり取りはほとんど違和感のない訳が出ます。汎用翻訳ツールよりも、この用途に関しては精度が高いと感じる場面が多いです。

そのうえで、AIを使った意訳系の翻訳には独特のクセがあります。単純な直訳ではなく、ディープラーニングを通して文脈に合った自然な訳を出す仕組みなので、こちら側で書いた文の意図が、AI側の補完や言い換えで微妙にずれることがあります。同じ日本語を書いても、文末をどう変えるかで訳された英語の温度がかなり変わったりします。

そこで意識しているのが、いわゆる「やさしい日本語」の発想です。主語を明示する、短く区切る、含みのある言い回しを避ける。書き手側がほんの少し意識を変えるだけで、翻訳された結果の安定感がまったく違ってきます。これは、英語を勉強するよりおそらく投資対効果が高いポイントです。

現在の出し分け方

メッセージ対応の現状の運用ルールも書いておきます。

現在は、ラテン語系(スペイン語・フランス語・ポルトガル語・イタリア語)やゲルマン語系(英語・ドイツ語・オランダ語等)の話者と思われるゲストには、英語で返しています。同系統の言語間は翻訳精度が高いので、英語で送れば近い精度で読まれるからです。

一方、アジア系の言語(中国語・韓国語・タイ語・ベトナム語等)の話者には、日本語で返しています。アジア系言語と英語の翻訳より、アジア系言語と日本語の翻訳の方が、文化的な含みも含めて精度が高い場面が多いと感じるからです。それに加えて、アジア圏のゲストは日本語をある程度学んでいる方の割合が他地域より高く、日本語のままでも読める方が一定数います。

ただし、ここで気をつけているのは、ゲストの言語をできるだけ正確に判断するということです。「相手の言語に合わせる」が前提にあるので、判断を間違えるとそれだけで体験は崩れます。名前が日本風でも日本語が第一言語ではない方はいくらでもいますし、その逆もあります。最初のメッセージが英語で来たならこちらも英語で返す——本来はそれだけのシンプルな話です。

ハンの体験談 ── 言語選択という概念と、コミュニケーションツールとしての言語

少し個人的な話を挟ませてください。このコラムを書いている私(ハン)は、生まれは中国で、その後ほとんど日本で育っているため、第一言語は日本語です。中国語の読み書きや会話のほとんどは、大学に入ってから改めて学び直して身につけたものです。理系学部の出身ですが、得意科目はずっと国語・社会・英語でした。

そのうえで、日本国内のホテルや受付で日本語で話しかけても、苗字で中華系だと分かるからか、英語や中国語で返ってくることがしばしばあります。「日本語、お上手ですね」と褒められることも一度や二度ではありません。悪気がないのは分かっていますし、相手も親切でやってくださっているのは伝わります。

ただ、ゲスト体験としては正直、あまり気持ちのよいものではありません。

これを書いているのは、自分の悔しさを伝えたいというより、「コミュニケーションにおける言語選択」という概念が、日本のサービス業にあまり存在していないように感じるからです。「日本人なら日本語、外国人なら英語」という二分が前提になっていて、その間にある「相手にとって最も自然な言語は何か」を見極めるステップが抜け落ちています。

もうひとつ抜けていると感じるのが、言語をコミュニケーションのツールとして柔軟に扱うという発想です。日本では英語というと、文法・発音・語彙・イディオムまで完璧であることを目指しがちですが、相手が非ネイティブの場合、ネイティブに近い英語はむしろ理解されにくいことがあります。

スペイン語話者が相手なら、LとRの違いを無理に意識せず、カタカナ英語気味の発音の方が伝わりやすいです。イギリス人やニュージーランド人と話すなら、エレベーターは elevator ではなく lift と言った方が通じます。アジア圏のゲストには、Chiba Prefecture と訳すより「チバケン」とそのまま発音した方が伝わる場面もあります。日本語を少し勉強してきている方には、日本語の単語を混ぜながら話すのも有効です。

「ネイティブに近い英語」よりも「相手が理解しやすい言葉」を選ぶ。完璧さより、伝わるかどうか。コミュニケーションのツールとして言語を扱うとは、こういう柔軟さのことだと思います。

民泊やAirbnbの運営でも、ここは意識的に考えたい部分です。名前で判断しない、最初のメッセージの言語に合わせる、相手の英語のレベルに自分の英語を寄せる——こうした小さな選択の積み重ねが、ゲスト体験の質を作ります。

挨拶や緊急対応の場面、そして緊急時のメッセージ

メッセージ以外の場面についても少し書きます。

私たちの場合、ゲストと顔を合わせるのは、滞在中のご挨拶に伺うときや、何かトラブルが起きて現地で対応するときです。こうしたリアルタイムの場面では、英語と中国語が話せると、対応の幅が一気に広がります。

特にアジア圏からのゲストでは、グループ内に英語も日本語も話さない方が含まれていて、ひとりだけ中国語が日常会話レベルで話せる、というケースも珍しくありません。そういうときにこちらから中国語で話せると、グループ全体の安心感が大きく変わります。

一方、緊急時の文字メッセージに関しては、私たちは日本語を選んでいます。給湯器が止まった、鍵が開かないといった場面で、英語の単語の細かい使い分けに気を取られて返答が遅れるくらいなら、日本語で素早く打って翻訳を経由した方が、ゲストに早く情報が届くからです。スピードと正確性のトレードオフで、緊急時はスピードを優先しています。

「テキストは翻訳経由・対面と現地対応は外国語・緊急時は日本語」というのが、いまのところ私たちの落としどころです。

海外Airbnbでの素朴な体験

最後に、ホストではなくゲストとして泊まった経験をひとつ。

スペインやスイスのAirbnbに泊まったとき、ホストの方がほとんど英語を話せないケースが何度かありました。それでもメッセージはお互い母語で書いて翻訳に任せれば成立しましたし、現地の対面のやり取りも、ジェスチャーと簡単な単語と笑顔で十分でした。困ったことは特になかったです。

ただ、これも自分たちが旅慣れていて、コミュニケーションのギャップに寛容だっただけかもしれません。同じ状況をすべてのゲストが心地よいと感じるとは限らないので、自分の施設のゲスト層に合わせた選択を、意識的にしたいと思っています。

結びに ── 英語があるとホスティングの幅が広がります

最後にひとつ、誤解されたくないことを書いておきます。

ここまでの話を「だから英語は要らない」と読まれるのは、私たちの本意ではありません。

ホスティングの観点でいえば、英語が話せると、ゲストとの雑談で土地の話が広がります。地元のおすすめスポットをその場で伝えたり、ちょっとした冗談を交わしたり、滞在の感想をリアルタイムで聞けたりします。第6回で書いた「コミュニケーションを求めるゲストへの先回り対応」も、英語ができれば翻訳越しではなく、その場のテンポで届けられます。

英語ができるかどうかは、提供できるゲスト体験のチャンスをどれだけ持てるかに直結します。「英語がなくても運営は回る」と「英語があるとホスティングの幅が広がる」は、両立する話だと思っています。

そんなわけで、対応言語の最適解について、私たち自身まだ手探りです。何かよい工夫や考え方があれば、ぜひ聞かせてください。一緒に考えていきたいテーマです。


次回は連載の最終回として、これまでの総集編をお届けする予定です。RevPARという指標にも軽く触れますが、これは戦略を立てるというより運営の状態を分析するときに使う二次的な指標なので、最終回としてはこれまでの議論を振り返る色合いを強めにする予定です。