BUSINESS SERIES ── 第5回

前回は、運営に関わる3者の利益構造を整理しました。なかでも清掃業者は「清掃回数を増やす/単価を上げる」が収益のドライバーで、オーナー目線とは方向性が一致しないという話をしました。

今回はその清掃を、オーナー目線でどう設計するかに踏み込みます。コストを下げるテクニックの話ではなく、「そもそも自分の施設にとってどんなクリンリネスが必要か」を考える話です。

清掃単価の高騰と、熟練人材の不在

ここ数年で、民泊の清掃単価は驚くほど上がりました。

理由は2つ重なっています。第一に、人材不足による人件費の上昇。これは民泊に限らず、サービス業全体で起きている構造的な変化です。第二に、コロナ禍以降に民泊・バケーションレンタル物件の供給が急増したこと。需要側の供給増が、限られた清掃人材を奪い合う形になりました。

加えて、熟練の清掃人材はコロナ期に業界を離れました。多くがホテル業界に吸収され、現在民泊の清掃を担っているのは、経験の浅いスタッフが中心です。「単価は上がったのに、品質は必ずしも上がっていない」という状況がここ数年続いています。

クリンリネスは最重要。ただし「ホテル基準」は過剰

清掃の重要性は揺らぎません。レビューに直結するのも、リピートに直結するのも、第一は清掃の質です。私たち自身、宿泊業はサービス業ではなく清掃業だ、と捉えているくらいの感覚で運営に向き合っています。

そのうえで言いたいのは、「ホテル基準のクリンリネス」がそのまま民泊にとっての正解ではない、ということです。

ホテルの清掃は、毎日の徹底清掃を前提に、客室数に応じた固定の清掃人員で運用される構造です(第3回でお話しした通りです)。一方、民泊はチェックアウトのたびに外注で清掃が入る構造で、コスト構造から人材構成まで違います。同じ基準を当てはめても、コストが膨れ上がるだけで、ホテルと同等のクオリティに到達するのは現実的ではありません。

ここで重要なのは、ゲストの期待値をどこに置いてもらうかをコントロールすることです。完璧な清掃を志すこと自体は当然です。ただ、ゲストに「髪の毛1本落ちていないのが当たり前」と思いこませてしまうと、運営は持ちません。多少のことは「こういうこともあるよね」と受け止めてもらえる関係性のなかで、毎回真剣に清掃に向き合う——このバランスが運営側の体力と満足度を両立させます。

そもそも日本の清掃要求水準は、世界平均から見て明らかに高い、という前提も知っておく価値があります。世界各地でAirbnbを使って旅していると、日本のクリンリネスは総じて過剰なほど整っていると感じます。利用する日本人ゲスト側の基準も、それに引き上げられています。

ターゲット次第でアプローチは変わります。日本人ゲスト中心の運営や、ホテル・ヴィラとしてブランディングしている施設なら、完璧な清掃は明確な提供価値になります。一方、欧米やデジタルノマドのゲストを中心にAirbnb的な世界観を提供したい施設なら、過剰なクリンリネスを目指すよりも、必要十分のラインを定めて期待値を整える方が、コスト・満足度の両方で最適化されることが多くなります。

これは前回までの記事で触れてきた「収益モデルの設計→LOSの設計→施設・体験の設計」というトリクルダウンの一部でもあります。

Airbnbの世界観で求められる清掃の分担

ここで知っておきたいのは、Airbnbがもともと提供しようとしているのは、整った宿泊サービスというよりも「場」そのものだという点です。ホストの暮らしの一部を貸す、その場としての家を共有する——シェアリングエコノミーの出発点はそこにありました。

そのため、ゲスト全員が画一的に高い清掃水準を期待しているとは限りません。実際、Airbnbのリスティングを見渡してみると、滞在中の清掃を一切提供していない施設、タオルどころかシーツすら用意していないプランも普通にあります。

Airbnbの設備項目には「清掃用具」という項目が標準で含まれています。掃除機、モップ、洗剤、スポンジ。これらは滞在中にゲストが必要に応じて使うことを想定した設備として位置づけられています。

ホテル基準の発想

Airbnb基準の発想

日常清掃

スタッフが毎日入る

ゲストが必要に応じてやる

徹底清掃

スタッフが毎日

ホストがチェックアウト後に1回

清掃道具の置き場所

ゲストの手が届かない場所

アメニティと同じくゲストが使いやすい場所

求められる体験

完全にホスト任せ

「暮らすように泊まる」感覚

特に気をつけてほしいのが、最後の「清掃道具の置き場所」です。これは設計者の世界観が一目でわかる指標になります。

清掃道具をクローゼットの奥や手の届かない棚に隠している施設は、ホテル延長の発想で設計されています。Airbnbの世界観に沿って設計されている施設は、清掃道具をアメニティと同じく、ゲストが自然に手を伸ばせる場所に置きます。

「滞在中に何かこぼしてしまったとき、すぐに拭けるか」「自炊した後にキッチンを整える道具がすぐ取れるか」——こうした小さな配慮が、ゲストが「暮らすように泊まる」感覚を持てるかどうかに直結します。

リネンサプライは本当にベストか

清掃と並んで議論になるのがリネンの扱いです。ここで取り上げるリネンサプライとは、リネン業者からシーツやタオルを1枚あたりの単価でレンタルし、使用したものは洗わずにそのまま返却する仕組みのことを指します。清掃業者にとっては合理的な選択肢で、短時間で作業を終えられ、毎回キレイな見た目を作りやすく、コストもそのままオーナーに請求できます。「衛生面で安心」「清掃工数が下がる」という売り文句も実態として正しいものです。

ただ、一般的なホテル向けリネンサプライは、見た目・メンテナンス性・耐久性を重視した設計になっています。短期回転を前提に最適化されている、と言い換えることもできます。これが長期滞在中心の施設になると、必ずしも最適だとは断言できません。長期で使うリネンは、肌触り・吸水性・洗濯後の風合いの変化など、滞在の快適性に直結する要素が増えてくるからです。

「衛生」「快適性」「コスト」のどこに重きを置くか。施設のコンセプトと届けたい体験次第です。ホテル的な短期回転型ならリネンサプライが合いますし、長期滞在中心の施設なら自前リネン+クリーニング業者という選択肢の方が体験価値は上がる場合があります。

「清掃業者が薦めるからリネンサプライ」ではなく、自分の施設にとって何が最適かを起点に考えることが大切です。

結論 ── 自分でやれる人が、結局いちばん強い

清掃コストを抑えながらクオリティを保つ最善の方法は、シンプルです。

オーナー自身、もしくは信頼できる近所の方にお願いすること。

これは前回も少し触れましたが、改めて書きます。期待値を自分でコントロールできて、ある程度の時間が割けるのであれば、自分でやるのが品質・コスト両面でいちばん良い結果になります。

メリットを並べると、こうなります。

  • 物件の状態を毎回自分の目で確認できるため、改善判断が早い。スタッフ教育のコストもゼロ
  • チェックアウト・チェックインの時間に融通が効き、ゲストの希望にも柔軟に応えられる
  • チェックアウト直後の状態を自分の目で見ることで、ゲストの過ごし方や設備の課題が把握できる
  • 自分で経験を積んでいると、後にアルバイトを雇って引き継いでもらうという選択肢も作れる
  • 民泊で最大コストになりがちな清掃のキャッシュアウトがなくなり、収益が直接的に改善する

私たち自身、立ち上げから妊娠・出産で物理的に動けなくなるタイミングまで、清掃はすべて自分たちとアルバイトの方々で回してきました。決して効率的なやり方ではありませんでしたが、現場で泥臭くやり続けていたからこそ、「どこに手間がかかるか」「どこを簡略化していいか」「どのレビューがどの清掃工程の結果か」がすべて自分たちの中に蓄積されました。外注に切り替えていく今も、その経験が運営判断の精度を支えています。

これは飲食店の立ち上げに似ています。多くの料理店は、最初は本人や家族、知り合いで店を回し、ノウハウを蓄積しながら少しずつ規模を拡大して、必要に応じて社員を増やしていきます。民泊の清掃も同じで、最初から外注に丸投げするより、自分で型を作ってから委託に移す方が、結果的に運営の質が上がることが多くあります。

スケールが大きくなれば、いずれ外注体制への移行が必要になります。ただ、立ち上げ初期や小規模運営のうちは、一度ご自身で清掃をやってみることをおすすめします。現場で得られる気づきが、その後の運営判断の質を確実に底上げしてくれます。


清掃は、コストの話だけで語られがちですが、本質は「どんな滞在体験を届けたいか」の話です。

ホテル基準を盲目的に追わず、自分の施設にとって適切なクリンリネスを設計する——その視点が、コスト構造とゲスト体験の両方を最適化する起点になります。

次回は、清掃と並んで運営の中心となる「ゲスト対応・メッセージ対応」を取り上げます。マニュアルや注意書きを充実させるほど、Airbnbらしさが失われていく構造についてお話しします。