BUSINESS SERIES ── 第2回

「去年と同じ価格で出しているのに、今年は全然埋まらない。でも、どこをどう動かせばいいのかわからなくて…」

ここ1〜2年で、こういった声を耳にする機会が増えました。

インバウンド需要の急回復に支えられた2023〜2024年、国内の民泊・宿泊市場は異例の好景気でした。強い需要が供給を上回り、価格を深く考えなくても予約が入り続ける時期が続きました。その好景気が2025年に入って落ち着き、今まさに調整局面にあります。

問題は市況の変化そのものではなく、「価格の動かし方がわからない」という状態にあります。好景気しか経験していない運営者にとって、需要に合わせてADRを調整する経験が圧倒的に少ないのです。

ADRとは何か

ADR(Average Daily Rate、平均客室単価)は「1泊あたりの平均販売単価」を表す指標です。

ADR = 宿泊収入 ÷ 販売した泊数

前回のGOPが「コストを引いた後にいくら残るか」を見るなら、ADRは「そもそも1泊いくらで売れているか」を見ます。ADRが上がればコスト構造を変えずにGOPは改善し、ADRが下がれば同じコストでGOPは圧迫されます。

ホテルと民泊で「価格の見え方」が違う

民泊特有の構造として、清掃料金がゲストへの請求に上乗せされる点があります。ホテルでは清掃コストが宿泊料金に内包されていますが、Airbnbでは宿泊単価に加えて清掃費・サービス料が加算されます。ゲストが実際に比較するのは「総額 ÷ 泊数」です。

滞在日数

宿泊単価

清掃費

1泊あたりの実質負担

1泊

7,000円

4,000円

11,000円

3泊

7,000円

4,000円

8,333円

7泊

7,000円

4,000円

7,571円

清掃費が高い物件が短期予約で選ばれにくいのは、宿泊単価ではなく総額の問題です。この構造を理解しないと、ADRだけ見て「競合より安い」と思っていても、ゲスト目線では割高に映っていることがあります。

「大箱の幻想」── 崩れた方程式

ADRの話をするうえで避けて通れないのが、近年急増した大人数向け大箱物件(8〜15人収容)の問題です。

かつて日本では、大人数のグループが中長期で滞在できる施設が極めて少なかった。そこに目をつけた民泊が需要を取り込み、大箱は儲かる業態として認知されていきました。コロナ後の供給不足が続いた時期は特に顕著で、SNSでは民泊系インフルエンサーによる「予約一発で100万円超え」といった投稿が話題になりました。

ただ冷静に考えてみてください。1泊6万円のぎゅう詰めの家に、30泊してくれる人がどれほどいるでしょうか。実態として、そのような投稿の多くは単なる問い合わせだったり、直前でキャンセルになっているケースが少なくありません。バズを狙った誇張も多く、数字だけが一人歩きしました。

その後、高収益に目をつけた大箱物件が一気に供給されたことで、需給バランスは完全に逆転しました。現在、大箱は飽和状態にあります。

大箱は確かにADRが高くなりやすい。しかし高いADRは必ずしも高い収益を意味しません。稼働率の低下、宿泊日数の短期化、清掃コストの重さを考えると、今の大箱の収益力はかつてのイメージとはかけ離れていることが多いのが実情です。ADRを追い求めるだけでは、市況の変化に追いつけません。

現在こんなケースも増えています。予約を埋めるために価格を下げ続けた結果、収容人数が10人の大箱なのに、実質的な1人あたり単価が5〜6人向けの小規模施設と変わらない水準になってしまっている。大箱のADRというメリットが、値下げによって完全に相殺されているわけです。

さらに深刻なのが稼働の実態です。実際に運営の相談をいただいたオーナー様のデータを確認したところ、最大10人収容の設計にもかかわらず、直近1年で8〜10人での宿泊実績がほぼゼロという物件がありました。大多数の予約は4〜6人で、大人数収容ゾーンは空き続けていたのです。であれば最初から5〜6人をターゲットにした作りにして、大人数には折りたたみマットレスで対応するほうが、ADRを高く維持しながら稼働率も確保できます。大箱は「夢」ではなく、ターゲット設計から見直すべき問いです。

「値下げると客層が悪くなる」は本当か

価格を動かせないもう一つの理由が、この思い込みです。

結論から言うと、Airbnbにおいて価格と客層の相関は、一般的に思われているより弱いです。

ホテルや旅館では価格帯が客層を分ける傾向があります。しかしAirbnbのゲストには異なる行動特性があります。思わぬ出会いや体験を求めて検索し、写真やコンセプトに惹かれて予約を決める、いわば"ジャケ買い"的な選び方をするゲストが多い。価格よりも「この空間に泊まりたい」という感覚が優先されます。

では何が客層を分けているのか。実態として客層を決めているのは価格ではなく、「どんな物件に見えるか」です。部屋の端から端までベッドで埋めた大箱スタイル、人数あたりの料金設定、そういった要素が「安く多人数で泊まりたい」という層に刺さります。価格を下げなくても、物件のあり方が問題のある予約を引き寄せることはあります。

空間のコンセプトが明確で、指名検索やAirbnbの「ゲストチョイス」で選ばれるリスティングは、価格と客層の相関が薄れます。「この物件に泊まりたい」という能動的な選択をするゲストは価格感度が低く、施設への敬意も高い傾向があります。ユカハンがWutoで目指しているのはこの状態です。指名力があれば、市況に合わせた大胆な値下げも客層への影響は限定的です。

また、こんな逆転の発想もあります。レビューの蓄積やOTA上での信頼の積み上げを目的に、意図的にADRを下げる時期を作るという戦略です。新規物件や評価リセット後の立ち上げ期、あるいは検索ランキングの回復を狙うタイミングで稼働率を優先してADRを抑える。中長期的な収益力のために短期的なADRを犠牲にする、合理的な判断です。

ADRを上げすぎると宿泊日数が短くなる

ADR引き上げには副作用もあります。単価が高くなるほど、長期滞在の予約が入りにくくなるのです。

1泊2万円の物件に2週間滞在すると総額28万円。ゲストは「短く集中して楽しもう」という旅程を選びやすくなります。結果として短期回転が増え、清掃コストのインパクトが大きくなる。GOPを本当に最大化するには、ADRと宿泊日数のバランスをセットで考える必要があります。

ダイナミックプライシング ── 低すぎも高すぎも危険

需要に応じて価格を変動させることは有効ですが、低すぎるのも高すぎるのも問題です。

高すぎる場合: 空室が続き、直前で大幅値引きするパターンに陥ります。これが繰り返されるとリードタイムが縮み、強気の価格設定がさらに難しくなる悪循環に入ります。

低すぎる場合: 短期的に埋まっても、ADRの継続的な低下でGOPが圧迫されます。

これはAirbnbのSmart Pricingに限らず、レベニューコントロールシステム全般に言えることです。自動化ツールは「稼働率を最大化する方向」に最適化されがちで、ADRを守る判断は苦手です。プラットフォームやツールの手数料収入とオーナーの収益最大化は、必ずしも一致しません。

誤解のないよう補足すると、Smart Pricingやレベニューコントロールツールを否定しているわけではありません。ただ、情勢は常に動いており、完璧な設定のまま完全自動化で運用し続けるのは極めて難しいのが実態です。ユカハンでも複数のサービスを組み合わせたり、独自のAIによる情報収集システムを構築したりと試行錯誤を続けています。それでも最終的には、経験から培った感覚と継続的な調整の積み重ねが欠かせないと感じています。

自分の物件の「適正ADR」をどう測るか

「去年の価格」でも「周辺の平均相場」でもなく、自分の物件の適正ADRを測る指標を持つことが重要です。

① 市況全体の動きを把握する

何より重要なのは、自分の物件単体ではなく市況全体の変化を継続的に読み取ることです。

シティホテル・ビジネスホテル・ゲストハウス・ホステル・カプセルホテル・ウィークリーマンション・サービスアパートメント・古民家民泊・ペット可物件・長期賃貸まで、カテゴリをまたいで単価と空室率がどう動いているか。インバウンド全体の流入量、地域ごとの傾向、滞在日数のレンジ別の単価変化――こうした多層的な情報を積み上げることで、自分の物件の適正価格の輪郭が見えてきます。

ユカハンでは、Airbnbに限らずこれらのカテゴリにわたる単価と空室率の動きを日々確認しています。正直に言うと、これは完全に趣味の領域です。数字の動きを追っていると市況の変化がパズルのように見えてきて、気づいたら毎朝チェックするのが習慣になっていました。その積み重ねが、価格調整のタイミングを逃さない土台になっています。

② RevPARで稼働率とセットで見る

RevPAR = ADR × 稼働率

ADR

稼働率

RevPAR

パターンA

10,000円

90%

9,000円

パターンB

14,000円

75%

10,500円

パターンC

18,000円

50%

9,000円

ADRが高くても稼働率が低ければRevPARは改善しません。目指すのはBのゾーンです。

③ 賃貸相場との比較(GOPで換算する)

「賃貸に出すよりAirbnbのほうが儲かる」は多くのケースで正しいですが、売上だけの比較では不十分です。正しくはADR・稼働率・GOP率の3つを掛け合わせて比較する必要があります。

民泊の実質収益 = ADR × 稼働率 × GOP率

賃貸は管理コストがほぼゼロに近く、GOP率が非常に高い業態です。例えば民泊のGOP率が40%の場合、賃料と同等の収益を得るには賃料相場の約2.5倍の売上が必要になります。目安として「賃料の3倍の売上があれば確実に有利」と覚えておくとわかりやすいでしょう。

民泊の高いADRで印象的な数字が並んでいても、清掃費・OTA手数料・光熱費を引いた後の実収益で比較しなければ、本当の優劣は見えてきません。

なお、転貸型の民泊(物件を賃借して運営するケース)の場合は、支払っている月額賃料を基準に考えると便利です。礼金・仲介手数料といった初期費用も事業期間で月割りして賃料に加算した実質賃料コストの3倍の売上があれば、民泊として十分な収益性があると判断できます。

計算してみよう

ADR = 先月の宿泊収入(清掃費・サービス料除く)÷ 販売した泊数
RevPAR = ADR × 稼働率(販売泊数 ÷ 営業可能泊数)

この数字を3ヶ月分並べると、ADRと稼働率のトレードオフが見えます。「昨年同月比でADRは維持できたがRevPARが下がった」という場合、価格は守れても稼働率を失っているサインです。


次回は、平均宿泊日数について掘り下げます。清掃費が「1ステイあたり固定」で発生する民泊において、宿泊日数はGOPに直結する最重要変数の一つです。そして実は、清掃業者や運営代行会社の利益構造と真っ向から利益相反するこの指標について、オーナー目線からしっかりお伝えします。