BUSINESS SERIES ── 第4回
前回は平均宿泊日数(LOS)の話をしました。長期滞在をベースに収益の安定軸を作り、その前後の短期予約も逃さない。ゲスト体験を最大化しながら、GOPも底上げしていく考え方です。
「それはわかるけど、どうすれば長期予約が増えるのか」という相談を受けることがあります。施設設計の話も重要ですが、もうひとつ見落とされがちな視点があります。
関わっているプレイヤーの利益構造が、必ずしもオーナーの目指す方向と一致していないという問題です。
3者の利益構造を整理する
民泊の運営には、大きく3つのプレイヤーが関わります。オーナー・代行業者・清掃業者、それぞれの利益構造を並べると、どこで方向性が一致してどこで食い違うかが見えてきます。
オーナー | 代行業者 | 清掃業者 | |
|---|---|---|---|
収益の指標 | GOP(売上 − 運営コスト) | 売上 × 手数料率 − 業務コスト(変動費中心) | 清掃単価 × 回数 − 運営コスト(固定費中心) |
売上を上げるポイント | 稼働率・ADRを最大化 | 手数料の元になる売上を増やす(≒オーナーと一致) | 清掃回数を増やす(≒短期予約を増やす) |
収益を上げるポイント | 清掃コストを下げる・長期滞在を増やす | 件数あたりの業務コストを下げる(高単価・長期滞在を優先したい) | 1回あたりの単価を上げる・回数を維持・増やす |
「売上を上げる」段階ではオーナーと代行業者の利益はほぼ一致します。食い違いが出るのは「収益を上げる」段階です。
オーナーが「清掃コストを下げたい」と思っても、清掃業者にその動機はない。オーナーが「空室より1泊でも入れたい」と考えても、代行業者には「工数に見合わない低単価の予約は避けたい」という経済的な動機があります。前回のADR記事で触れた「値下げたら客層が悪くなる」という代行担当者の感覚も、こうした構造が背景にあることがあります。
3者が完全に同じ方向を向いているわけではない、ということは知っておく必要があります。
運営代行が清掃も兼業すると何が起きるか
民泊業界では、運営代行と清掃業を同一の会社が担うケースが多くあります。
この場合、2つの相反するインセンティブが同一組織の中に生まれます。運営代行としてはオーナーの収益最大化を目指すべきですが、清掃部門としては清掃回数が減ることで売上が落ちます。
清掃は「件数 × 単価」という数字で管理しやすく、運営戦略の改善による収益インパクトは見えにくい。組織として評価しやすい方に引っ張られる構造が自然と生まれます。
「清掃費を下げましょう」という提案が代行会社から来たことがない、という声は実際によく聞きます。
市場拡大で失われたパートナー視点
2023年前後のインバウンド急回復以降、民泊市場は急速に拡大しました。同時に運営代行業者の数も増えました。
課題は、参入してきた業者の多くが「オペレーター」として機能している点です。メッセージ対応・清掃手配・鍵管理——これらを大量の物件でこなすことが業務の中心で、経営のパートナーとして動く機能は薄くなっています。
自身がAirbnbやバケーションレンタルで長期滞在をしたことがない担当者が、「長期滞在ゲストにとって快適な施設設計」を提案できるかは疑問です。日本国内の旅行スタイル(1〜3泊の観光旅行)しか知らないまま、欧米やデジタルノマドの旅行文化に合わせた運営をするのは難しい。
「契約後に収益改善の具体的な提案を受けたことがない」という状況のオーナーは少なくありません。それが当たり前だと思っていたとしたら、一度立ち止まって確認してみる価値があります。
「立ち上げ」に潜む初期費用の構造
民泊の立ち上げにかかる費用は、大きく3つに分けられます。
①企画・コンサルティング費用(事業設計、コンセプト立案、収益シミュレーション)
②制作・実働費用(リスティング作成、マニュアル制作、オペレーション構築)
③購入物費用(家具・家電・アメニティ等の実費)
見積もりを一式で受け取ると、③の内訳が不明瞭なことが多い。家具や家電は相場観がつかみにくいため、仕入れ原価に大きなマージンを乗せても気づかれにくい構造です。「すごく安くやってくれた」と感じていたのに、実は③で十分な利益が確保されていたというケースは実際にあります。
さらに闇が深まるのが、不動産会社のグループ企業だったり、不動産部門を自社で抱えていたり、不動産会社と強い繋がりを持つ運営代行業者です。
物件の購入価格・賃料・礼金・リフォーム工事——これらは一棟ごとに数百万〜数千万単位の取引になります。そこに利益が乗っていても、家具費用の倍額請求と違って総額の中に埋もれてしまい、ほぼ気づきません。100〜200万の利益が乗っていても誰も疑わないし、数百万単位で乗っていることもあります。
立ち上げフェーズだけで運営代行として数年分に相当する利益が出てしまうとすれば、その後の運営に本気になる動機が薄くなるのは想像できると思います。
ユカハンが大切にしていること
業界の構造を書いてきたのは、私たちが同じことをしないためでもあります。
物件紹介・清掃は自社で持たない。
物件紹介手数料も清掃費マージンも取りません。清掃業者はオーナーご指定の業者でも対応します。余談ですが、可能であれば清掃はオーナー自身や信頼できる近所の方にお願いするのが、品質・コスト両面でベストなことが多いです。
初期費用は②と③の実費のみ。
①の企画・コンサルティング費用を初期費用として請求しないのは、オーナーの収益が伸びてこそユカハンの仕事が評価されると考えているからです。初期費用で利益を確保してしまうと、その後の運営を頑張る動機が薄れる。だから②実働費用と③購入物の実費だけをいただき、購入物はすべてレシート込みでご報告・立替対応しています(短期解約の場合は例外として①企画・コンサルティング費用相当をご請求します。金額は見積もり時にあらかじめご説明しています)。
月次レポートで収益・施設状況・今後の見通しを報告する。
数字の羅列ではなく、現状の分析と今後の方針をセットでお伝えします。契約後こそが本番だと考えているためです。
運営代行を選ぶ際の基準として「実績」「対応の速さ」「手数料率」はよく挙げられます。それらに加えて、「どういう利益構造で動いている会社か」「契約後にどんな提案をしてくれるか」を確認することが、長期的な収益を守るうえで重要だと思います。
次回は、この記事でも何度か触れた「清掃コスト」をテーマに掘り下げます。清掃費をどう下げるか、誰に頼むか、民泊の収益に直結するこの問題を具体的に整理します。
